vol.3 寺尾紗穂

ー死や別れを歌うことが多いですよね。弱っていたり、悲しんでいる人に寄り添うような表現だから共感できるのだと思います。
寺尾:そうですね。出会いって、人を変えていく力があると思いますが、別れはそれを自分の中にためこんで、飲み込んで進んでいくものというか。出会って変わっていくのもすばらしいんですけど、別れを自分の中にとりこんで進んでいく、そっちの方に自分は惹かれますね。それを越えた後に出会える景色の美しさというか。

ーライブで意識していることはありますか?
寺尾:特にないんですけど、ライブはやっぱり楽しいですね。会場の反応がすごくわかるライブが好きです。盛り上がってわーってなるわけじゃなくて、静かに聴いているんだけど、始まってから終わるまでお客さんの集中が途切れてないのを肌で感じる瞬間があるんですよ。

次の『楕円の夢』というアルバムはどんなアルバムになりそうですか?
そうですね。『青い夜のさよなら』みたいな電子的なアプローチは残しつつ、基本的には私の弾き語りとドラムとベースでやる曲を書いてます。あとはバンドの“森は生きている”とかに入ってもらった曲もあるし。
PVではホームレス経験者の踊りのグループのソケリッサ*6に出てもらおうと思ってます。

ーアルバム以外には何か今後の活動はありますか?
寺尾:秋に本が出ます。『南洋と私』っていうリトルモアに連載していたエッセイをまとめた本です。戦前のサイパンって日本が統治していたんですよ。そこがどういう場所だったのか、どういう交流があったのかが気になっていて。そのノンフィクションエッセイみたいな感じですね。

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*1 川島芳子:川島芳子は清朝最後の王女として生まれ、日本の川島家の養女として育つ。“男装の麗人”と呼ばれ、第二次世界大戦中に日中の狭間で翻弄され数奇な運命をおくる。映画『ラストエンペラー』やTVドラマ(2008年テレビ朝日系)で黒木メイサが演じた『男装の麗人〜川島芳子の生涯〜』でも描かれている。
*2 山谷:日雇い労働者が生活する地域。俗に言うドヤ街と呼ばれる簡易宿泊所が集まる街の通称。68年には岡林信康が『山谷ブルース』で山谷に働く男達を歌った。現在では仕事は激減し、ホームレスや生活保護受給者が急増している。
*3 関東大震災での朝鮮人殺害:1923年(大正12年)に起きた10万人以上の死者を出す関東大震災の混乱時に「朝鮮人が襲来する」「井戸に毒を入れた」といった“デマ”が流れ、それをうけて朝鮮人さらには中国人の無差別虐殺が起きた。『九月、東京の路上で〜1923年関東大震災ジェノサイドの残響』加藤直樹・著(ころから)に詳しい。
*4 寺尾次郎:山下達郎、大貫妙子を輩出したバンド、シュガー・ベイブのベーシストとして活動し、大瀧詠一など様々なミュージシャンのセッションに参加した。
*5 2008年に『「音のブーケ」大貫妙子カヴァー集』2013年に『Tribute to Taeko Onuki』に参加した。
*6 ソケリッサ:アオキ裕キ主宰のホームレスの人、また、ホームレス経験者の踊りを主体とした肉体表現グループ。寺尾さんのライブでの共演多数。自由な踊りが魅力的。

寺尾紗穂: 1981年東京都生まれ。2005年バンドThousands Birdies’ LegsでCDデビュー。07年『御身onmi』でミディよりメジャーデビュー、大貫妙子、坂本龍一、星野源から賛辞を得る。2014年秋公開の安藤桃子監督作品『0.5mm』(安藤サクラ主演)の主題歌に『残照』を提供。CM音楽やナレーション、エッセイ、書評などの分野でも活動。2012年6thアルバム『青い夜のさよなら』を発表。2013年より画家の松井一平の詩に曲をつけ、ライブで松井のドローイングとのコラボライブも各地で開催しているほか、ホームレス経験者によるダンスグループソケリッサのメンバーとのコラボもしばしば行っている。

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寺尾紗穂オフィシャルサイト

2014/05/16
photo: TAKAMURADAISUKE
illustration: しらい ゆうこ
interview 白井瑞器

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