一人の世界に入り込む、書籍の仕事
書籍の装幀のお仕事も多いですが、どうやって進めていくんですか?
引地 まず文章を読みながらなんとなく絵をイメージします。基本は編集者さんやデザイナーさんの要望に沿って作ります。そうやって指定があると自然と作品の形が見えてくるんです。ときには、作家さんのイメージに合うか合わないかで悩むときもあります。そういう意味で悩んだ作家は森鴎外です。あきらかに、僕とは対局にある人だなと思うんですよ。すごいインテリのお医者さんで、自分とはあまりにも違いすぎて。そのギャップが絵に表れないように、格調高い作品を目指しました。
『ヰタ・セクスアリス』森鴎外・著 新潮文庫
SF的な世界観も数多く描いていますね。もともとそういった世界観はお好きなのですか?
引地 僕らの世代はガンダム世代ですから、やっぱりその影響は大きいですよね。でも、僕はSF的な作品を作るときにそこまで細かく設定や考証を考えないですね。SFでいえば、今度、森博司さんの小説の装画をやらせてもらう機械がありまして、それは生物学的なことをテーマとした作品なんです。SF小説は文章に細かい設定や世界観があるので、表紙はそれを具体的なイメージにするよりも、抽象的な画の方がいいかもしれませんよね。
『彼女は一人で歩くのか?』森博嗣・著 ©講談社タイガ
その他に引地さんが手がけられた書籍の一部
『MAZE(メイズ)』恩田陸・著 双葉社
『クレオパトラの夢』恩田陸・著 双葉社
『ブラック・ベルベット』恩田陸・著 双葉社
『クラシックに捧ぐ』横溝亮一・著 株式会社KADOKAWA
ーーさらに誌面では、セツ・モードセミナーの思い出や、子どもが紙で作る時のポイントなどもお話されています。続きは、本誌で。
引地 渉
1971年生。福島県出身。埼玉大学教養学部教養学科卒業後、セツモードセミナーにてイラストレー ションを学ぶ。シップス、中垣デザイン事務所等、企画、デザイン会社数社を経た後フリーになる。古紙類を使った独自のコラージュで2004 年HBファイルコンペ大賞(鈴木成一賞)受賞。以降数多くの書籍の装画を手がける。