vol.2 加藤千晶

何のあても無くとりあえず東京へ

—東京に出てきたきっかけは何かあったんですか?
加藤:失恋をきっかけに(笑)。名古屋でゲームソフトの音楽を作っていたんですが、失恋もしたことだし、何のあても無いけど、とりあえず東京さ行くべ、みたいな(笑)それでコンピに入れてもらったから、メトロトロンの湾岸スタジオに電話したんです。そしたら鈴木博文さん本人が電話に出て! 「あの〜コンピで一曲入れてもらったんですけど…、遊びに行ってもいいですか?」って。そこから、音源聴いてもらったり、演奏してくれる人を探してもらったり。で、試しに録音してみるかってなり、それがたまり『ドロップ横丁』という1stアルバムになりました。

—NRBQ*7との交流はどのように始まったんですか?
加藤:来日公演を観に行って、『ドロップ横丁』を発表してしばらく経った頃で、終演後「コレ、アルバム出したの、聴いてね!」ってCDを渡してその時は終わったんです。そしたら何日かたって、リーダーのテリーから自宅に「アルバム聴いたよ!衝撃をうけて、何回も聴いたよ!」っていう留守電が入っていて。それから、他のメンバーとも仲良くなって、日本公演した時にはオープニングアクトもさせてもらったり、友人としても音楽的にもすごく影響を受けましたね。

—とにかく直接人に会いに行って、交流を深めるというのが行動的でポジティブですよね。今だったらとりあえずパソコンで検索ですけど。
加藤:そうですね。当時はそれしか無かったしね。やっぱりまわりにいた人達に恵まれましたよね。でも私すごくマイナス思考なんですよ。何事もうまくいくみたいな楽天家ではなくて。うまくいかない時にどうするかなってまず考えるから。それって死ぬってことが大前提にあって、だったらとりあえず、今できることをやろうと。だからポジティブっていよりは、マイナス思考ゆえの少しでもマシなほうがいいっていう。ずるいんですけどね(笑)。

—ジャケットに絵を使うことが多いですが、絵はお好きですか?
加藤:好きですね。特にかこさとし*8さんは、小さい時からコレクションしているので。たぶん、個人では日本で一番本を持っていると思います!『おせっかいカレンダー』を出す時に無理かなと思ったんだけど、CDの絵を描いてくださいって手紙を出したんです。でも返事がなくて。次は電話かけたらご本人が出て、丁寧にお願いしたんですが、「無理です」って言われて。でも、あきらめきれなくて。その後も電話したら3回目で「君は、私に徹夜をして描けっていうの?」って怒っちゃったんですよ。そういうつもりじゃないんですけど昔から先生に描いてもらうのが夢だったんですって言ったら。「どういう絵が何枚いるの」って聞かれて。ピアノ弾いている女の子を2枚って、とっさに言いました。しばらくしたら、本当にかこ先生から作品の郵便が届いたんです。その後なかなかお礼ができなくて、3年後に銀座のサイン会でお会いして、そこでやっとお礼ができたんす(笑)

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—今後の予定はありますか?
加藤:とにかくライブをやることですね。次回作の構想は、『蟻と梨』ができた後にすぐにあるんですよ。だからもちろん作品も作りたいですね。また何年もあいちゃうかもしれませんけど(笑)。それとやっぱり映像作品の音楽ももっといろいろやってみたいです。

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*1 栗原正己。94年に栗コーダーカルテットを結成。『ピタゴラスイッチ』などNHK教育テレビで楽曲提供多数。05年にスター・ウォーズ「帝国のマーチ」のカバーがヒッ ト。本来怖い曲だが、栗コーダーバージョンは脱力して、思わず笑ってしまう。オリジナルアルバムの他、映画、CM、アニメなど幅広い分野で活躍中。

*2 宇野誠一郎。作曲家。井上ひさしと組んで制作した「ひょっこりひょうたん島」は今だに車のCMで使われるほどの名曲。『ムーミン』『一休さん』『ふしぎなメルモ』などアニメ主題歌を多数制作した。『一休さん』の「母上さま〜い〜きゅう〜」というフレーズがなんとも、もの悲しくて今でも覚えている人も多いのでは。
*3 少年王者舘。天野天街を中心に82年に名古屋で旗揚げ。大阪の松本雄吉率いる維新派とも交流がある。
*4 メトロトロン。ムーンライダーズの鈴木慶一と鈴木博文兄弟が87年に設立した湾岸スタジオを発信源とするインディペンデント・レーベル。そこから発表されたコンピレーションアルバムが『International Avant Garde Conference vol.3 』。これに加藤さんはザボンドボンというバンドで参加した。
*5 ムーンライダーズ。鈴木慶一を中心に75年に結成。ニューウエイブや、テクノなど時代の音楽にアプローチしながら約35年にわたって活動。バンド以外でも、映画、CM、プロデュース、ゲームなど多様なジャンルでメンバー各人が音楽活動を行う。11年に無期限活動休止を発表。
*6 あがた森魚。72年に『赤色エレジー』でデビュー。ムーンライダーズの前身バンド“はちみつぱい”の母体となった“あがた森魚と蜂蜜麺麭”を鈴木慶一と共に結成した。21世紀に入り、久保田麻琴、鈴木惣一朗、HARCO、青柳拓次など若い才能との交流も多く、俳優や映画監督として現在も精力的に活動する。
*7 NRBQ。デビューは69年。以来40年にわたり活動。ロック、ポップス、ジャズ、カントリー、様々な音楽を取り込んだサウンドが魅力。エルヴィス・コステロやキース・リチャーズなどがファンを公言している。メンバーチェンジやメンバーの死去などもあり、現在は新しいNRBQとして、オリジナルメンバーのテリーアダムスに、新メンバーが加わる形で活動している。
*8 かこさとし。絵本作家。「だるまちゃんシリーズ」「からすのパンやさんシリーズ」など多くの名作絵本を残す。

加藤千晶:愛知県生まれ。97年に1st ソロアルバム『ドロップ横丁』。00年に2nd 『ライラックアパート 一○三』、05年に3rd 『おせっかいカレンダー』を発表。ライブで様々なミュージシャンと共演する一方、CMやNHK教育番組などにも楽曲を提供し、原田知世、空気公団などのライブサポートなども体験。またNRBQのテリーアダムスとはほぼ10年来の交流がある。12年に4thアルバム『蟻と梨』を完成。15年にはミニアルバム「四つ角のメロディー」を発表。

NHKみんなのうた「四つ角のメロディー」を含む、
ミニアルバム『四つ角のメロディー』を発売中!
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おかあさんといっしょで歌われたこどものブルーズ、『ほっとけーきはすてき』のセルフカバー、NHK「モリゾー・キッコロ森へいこうよ!」で放送された『ぼくはみのむし』、ライブで人気の『ひげめがね賛歌』や『ヒネコッタコマメパン』なども収録!

加藤千晶オフィシャルサイト

2013/03/26
photo: TAKAMURADAISUKE
illustration: しらい ゆうこ
interview: 白井瑞器

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