vol.7 清田麻衣子/里山社、編集者

山田太一さんはパンクなんです

◎新刊、山田太一さんのシナリオの本はどういった内容になりそうですか?

清田 もともと山田太一さんのテレビドラマを、母親がよく家で見ていたんです。山田さんの作品はものすごい集中力で見るから、見終わったあとですごく疲労するんですよね(笑)だから子どもの頃も、見終わった後も母と「良かったね〜」なんて気軽に言えないような空気が流れていました。よく見ていたのは笠智衆さんが主演した『ながらえば』の「笠智衆三部作」といわれている作品ですね。NHKしか見ちゃ行けない家庭だったので、『ふぞろいの林檎たち』は観てなかったんですよ。民放を許されたのが中学入ってからだったので、それ以降は今までのぶんをとり戻すように見ましたね(笑)
フリーランスの編集者になった時に河出書房新社から山田さんに関する本を出させてもらいました。それから、エッセイアンソロジーを文庫で3冊出して、最新エッセイ集『夕暮れの時間に』を出しました。
とはいえ、シナリオを読まれなければいけないだろうと。シナリオは最初は読みづらいんですけど、読み始めるといっきに読めるんです。私の感覚ではラジオドラマを聴いている感じです。とてもイマジネーションが広がって、テレビを見るよりも私は好きですね。山田さんの演技指導などが細かくト書きに書いてあるんですよ。細部にも山田さんの神経が宿っているんだなっていうのがわかるんです。

satoyama_n1a2524
『山田太一セレクション 早春スケッチブック』(里山社)

◎今の時代に山田太一さんのシナリオブックというのはどうしてですか?

清田 山田さんのドラマには、高度経済成長期の中で隠された闇や歪みがずっと描かれてきました。近代化が進むことで、取りこぼすもがたくさんあるというのが山田さんの思想の底流には常に流れていると思うんです。それをホームドラマという形で描いてきた。バブル期を経て90年代くらいまでの日本は、そうはいっても豊かになることは悪いことではないという雰囲気があったと思うんです。
それが完全に飽和し崩れたのが3.11の震災以降だったと思うんですよ。山田さんはそれにかなり早い段階から気づいて、それをテレビという大衆メディアを使って強いセリフで表現してきたんです。山田さんが好きなのはアフォリズムという格言です。ニーチェとかモンテーニュなどのアフォリズムを、山田さんはテレビドラマのシナリオの中に忍ばせているんですよ。だからセリフがものすごく強烈なんです。最もそういうものと対極にある大衆的なテレビメディアで、ある意味ゲリラ的な行為をやっているんですね。だから私は山田さんの作品はパンクだと思っています。山田さんのパンクでひねくれているところ、そういう言葉の魅力を形にしたいですね。
山田さんの作品はどの時代にも変わらず響くと思うんですよね。例えば『想い出づくり』という作品でも(適齢期の女性3人が結婚前に想い出を作りたいという話)、結婚のプレッシャーがあったり、逆に独り身だと何か問題があると思われたり。ある時期になると結婚してないことや、子供を産んでないと肩身が狭い。そういう世間の視線は変わってないから、女性の生きにくさは今でもぜんぜん変わってないんですよ。山田さんのそういう目の確かさはいつの時代にも響くと思っています。


佐藤真
1957年、青森県生まれ。東京大学文学部哲学科卒業。大学在学中より水俣病被害者の支援活動に関わる。1981年、『無辜なる海』(監督:香取直孝)助監督として参加。1989年から新潟県阿賀野川流域の民家に住みこみながら撮影を始め、1992年、『阿賀に生きる』を完成。ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭銀賞など、国内外で高い評価を受ける。以降、映画監督として数々の作品を発表。他に映画やテレビ作品の編集・構成、映画論の執筆など多方面に活躍。京都造形芸術大学教授、映画美学校主任講師として後進の指導にも尽力。2007年9月4日逝去。享年49。(里山社HPより引用)

『まひるのほし』
「障害者アート」をこえた「アート」。彼らが作り出す多様な作品世界。7人のアーティストの世界を旅しながら、人と映画はゆっくりと自由になってゆく……。 登場するのは7人のアーティストたち。彼らは、知的障害者と呼ばれる人たちでもある。『まひるのほし』は神戸・武庫川すずかけ作業所、平塚・工房絵、信楽・信楽青年寮で、創作に取り組む彼らの活動を半年以上追い続け、アートと人の間を旅したドキュメンタリー映画である。 無我夢中でパステルを画布に走らせるシュウちゃん、「ナサケナイ」とつぶやきながら陶器を作り続ける伊藤さん。そして一人の女性にあてて、あるメッセージを1年間、書き続けたシゲちゃん。撮影したフィルムは40時間にも及んだ。そこには言葉にできない思いが鬼気迫るメッセージとなって溢れてくる。そしてなによりもその内奥にひそむ絶望の深さがユーモアと諧謔性となって今を生きる時代を撃つ。タイトルの『まひるのほし』には“真昼には見えなくてもそこに燦然と輝いている星がある”という思いがこめられている。(DVD解説より引用)

 

『花子』
花子と母のアートする毎日。 アーティスト今村花子と、彼女を取り巻く家族の物語。 今村花子は家族4人で京都に暮らしている。知的障害者のためのデイセンターに通う毎日を送る一方、週末には油絵描きに熱中し、夕食後には畳をキャンバスにたべものを絵の具のように並べるという日課を欠かさない。花子に寄り添うのは母、知左。花子の「たべものアート」を6年前から毎日写真に撮り始め、その数は2000枚を超えた。そんな母娘の傍らで、定年退職後の父は芝居に三味線にと忙しい。姉の桃子は微妙な距離を保ちながらそんな3人を見守っている。時には花子に手を焼きつつも、日々くり返される今村家の日常。その中で、花子はひとり毎日変わることなく「たべものアート」を作り続ける。一人のアーティスト今村花子と家族が緩やかにつながって暮らす姿が、ときにユーモアをにじませながら淡々と描かれる。(DVD解説より引用)

 

yamadataichi-serekushonad-icon

山田太一セレクション 『早春スケッチブック』 『想い出づくり』

『男たちの旅路』 1月27日発売予定

里山社
編集者、清田麻衣子が2013年に設立。いままでに、田代一倫写真集『はまゆりの頃に 三陸、福島 2011〜2013年』、『井田真木子 著作撰集』、『井田真木子著作撰集 第2集』、『日常と不在を見つめてードキュメンタリー映画作家・佐藤真の哲学』を刊行。現在、山田太一セレクションとして、『早春スケッチブック』、『想い出づくり』が発売中。
http://satoyamasha.com/

2016/12/10
photo: 中野修也
interview 水木志朗

This entry was posted in . Bookmark the permalink.